【対談コラム】映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」

50年前のリンチ殺人、非暴力で立ち向かった大学生 その意味を問う


© 「ゲバルトの杜」製作委員会(ポット出版+スコブル工房)

映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」を8月18日(日)に高知市の自由民権記念館ホールで上映します。

上映に先駆けて、本映画をめぐる樋田さんと広井さんの対話をご紹介します。

 

約50年前の1972年11月8日早稲田大学キャンパスで一人の若者が殺された。
第一文学部2年生だった川口大三郎君。自治会を牛耳り早稲田を支配する新左翼の革マル派による壮絶なリンチが死因だった。この事に怒った一般学生が立ち上がり、革マル派から自治を取り戻すための新自治会を立ち上げた。その新自治会の委員長になったのが、当時文学部1年生だった樋田毅さん。暴力で支配する革マル派に対して非暴力で対抗したが、樋田さん自身を含めて鉄パイプなどで暴行を受け、他にも多くの負傷者が出た。樋田さんはこの実体験をもとに「彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠」を2021年に出版。大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した。映画「ゲバルトの杜」はこの本をもとに作られた。

『彼は早稲田で死んだ 大学構内リンチ殺人事件の永遠』(著:樋田毅/文藝春秋)

 

樋田 毅 さん

川口君事件の翌年の1973年に早稲田大学文学部に入学した広井護さん。後に高知市の私立土佐中高等学校の国語教師となった。高知市での「ゲバルトの杜」の上映を前にして、樋田さんとオンラインで対談をした。

1973年4月2日、早稲田大学の各学部合同の入学式の出来事を、広井さんは強烈に覚えている。
学長の講話中、「早稲田解放」「革マル追放」というプラカードを持った一団が入ってきて、前列に座った。声にならないどよめきが起きた。
すると今度は、後ろからさらに大きいどよめきが起き、黒いヘルメットの一団が乗り込んできて、檀上を占拠した。
教授陣はてんでに姿を消し、黒ヘルの学生が演説を始めた。新入生たちからは「帰れ、帰れ」のシュプレヒコールが上がった。記念会堂が「帰れ」の叫び声で震え出さんばかりだった。会場は騒然としたまま入学式は中止となった。広井さんは「乱入したこの人たちは何だろう」と思った。革マル派の暴力を批判しているらしい集団が、逆にきわめて暴力的に見えた。

この背景には前年の1972年11月、早稲田大学文学部の構内で、川口大三郎さんが革マル派の学生たちによるリンチによって殺害された事件がある。暴力の革マル派を追放して新しい自治会を作ろうと文学部の一般学生が立ち上がった。
その運動の中で、非暴力と寛容の精神で革マル派に対峙しようとする新自治会の考え方と、目には目をで暴力で立ち向かう必要があるという行動委員会を名乗るグループとの二つの考え方に分裂し対立した。

最初にプラカードを持ってきた一団は新自治会。黒ヘルメットで壇上を占拠したのは行動委員会のグループだった。新自治会は入学式を歓迎して自分たちの考えを「彼は早稲田で死んだ」というタイトルの小冊子にして訴えた。一方、黒ヘルメットの行動委員会のグループは総長を捕まえて大衆団交を行い、追及することが目的だった。

広井さんは、約50年後に樋田さんの著書「彼は早稲田で死んだ」を読んで初めてこの入学式の混乱の構図が理解できた。今回の対談で、広井さんは樋田さんに直接その状況を聞いた。入学式の中止について、広井さんは「川口君リンチ事件や革マル派による学園支配についての認識のない多くの新入生にとっては、これらの行動は全く不可解で、理解不能のふるまいだった。一般学生は、革マル派にも反革マル派にもそっぽを向いたのではないか」と言った。
樋田さんは「そうかもしれない。だが、われわれにとって入学式は現状を訴える重要な場であり、新入生歓迎の小冊子を読んでもらえれば、わかってくれるはずだ」と考えていた。樋田さんたちは入学式の中止を受けて、会場の外で集会を開き早稲田大学の改革を訴えた。共感してくれる新入生もけっこういた。

それにしても、なぜ大学内での暴力が放置されたのか。「革マル派の暴力に対抗することが、果たして一般大学生の手に負えることなのか」と広井さんは問うた。
川口君が監禁されたとき、川口君が連れ去られたことを知った級友の一人は、川口君の命の危険を感じ「警察を呼んで」と大学側に求めていた。当時、教員たちは毎日、学内をパトロールしていた。友人たちは、その教員たちに川口君の救出を訴えていたが、警察を呼ぶには教授会を開くなどの手続きが必要だとして、積極的に動かなかった。川口君の死に際し、校舎の管理責任を怠った大学当局にも責任はあると、樋田さんは考えている。
だが、そもそも、日々行われている革マル派の暴力支配に対して、警察を呼ぶという発想は当時はなかった。大学の自治を守るという気持ちが強かった。しかし、実際には、それが裏目に出て、革マル派の暴力支配が続いたと、樋田さんは思う。
広井さんは50年間抱いていたもやもやに整理がつき納得できたとのこと。特に入学式の後、会場前で非暴力主義に立つ新自治会執行部と新入生の一部が実のある対話していたことを知って感銘を受けた。

映画では、オーディションで選ばれた早稲田の演劇研の学生が中心になっての、凄惨なリンチの場面の再現劇が映画の冒頭にある。当時の革マル派の書記長だった人物に樋田さんが本を書くにあたって改めて取材していた。そのメモをもとにして、早稲田大学出身の劇作家、鴻上尚史さんが演出して忠実に再現した。樋田さんをはじめ現在は70歳前後の当事者たちの証言も積み重ねられている。

© 「ゲバルトの杜」製作委員会(ポット出版+スコブル工房)

さらに、映画には革マル派がデモで練り歩いたり、一般学生と対峙するなどの実際の映像が使われている。テレビ東京が撮影したもので、学生たちに密着して番組を作っていた時期があった。プロデューサーは入社して間もない田原総一朗さん。「この運動はいったい何だったのか」という問いが発せられ「無意味ではなかったのか」という結論にもなるのが、樋田さんは納得がいっていない。

樋田さんは今も当時の運動のことを考える。現在もウクライナ、パレスチナをはじめとして「暴力」がますます幅をきかせている。 50年前の早稲田の運動の意味は何だったのか。非暴力を貫いたことが重要だと樋田さんは改めて思う。一方で、力がなければ、結局何もできないのが世界の現実だ、という考え方もある。答えは見つからない。だが非暴力の精神は、訴えて続けていきたい、と思う。

 

映画「ゲバルトの杜 彼は早稲田で死んだ」の上映会、さらに代島治彦監督と原案者の樋田毅さんトークイベントは、8月18日(日)に高知市立自由民権記念館ホール( 高知県高知市桟橋通4丁目14-3)で開催します。

◆映画上映
1回目 10:00~12:14
2回目 14:30~16:44
3回目 18:00~20:14

◆トークイベント
1回目 12:14~13:00
2回目 17:00~17:45

【料金】
前売 1300円
当日1500円
小中学生は当日のみ1000円
※未就学児入場不可

【前売り券販売所】
高知県立県民文化ホール
高知県立美術館ミュージアムショップ
かるぽーとミュージアムショップ
金高堂書店本店
コープよしだ、コープかもべ
ローソンチケット(Lコード:81665)

※シネマ四国の電話・メール・Facebook・LINEトークでも前売券の予約ができます。

【主催・問い合わせ】
シネマ四国 ☎088-855-9481(9:30~19:00)
メール:cinema-shikoku@sweet.ocn.ne.jp

後援:高知市教育委員会